紅葉の季節

                                                                     2006年10月22日

                                           山下光雄

紅葉の季節である。
 これまでに新潟や群馬、長野、北海道などの紅葉を見てきたが、その中で北海道の紅葉が一番印象に残っている。
 北海道では山の斜面全体が透明感のあるオレンジ色で覆われ、バスは紅葉のトンネルの中を走るようであった。

 それにもまして見事な紅葉はカナダの紅葉であった(写真)。カナダにはメープル街道と呼ばれるルートがあり、バスで1日中走っても、沿道に紅葉が続いていた。
 カナダの紅葉は日本のものよりやや赤みが強いように感じられ、これはカナダ国旗に描かれているサトウカエデの色だそうで、この鮮やかな紅が今も目に焼き付いている。

 それにくらべ東京の紅葉は悲しい。モミジが赤くなっても透明感のない濁った赤で、一部は枯れ葉のようである。

 

 ◇     ◇     ◇

退職してから10年が過ぎた。
 退職した直後はしばらくのんびりし、そのうち気楽な仕事でも探そうかと思っていたが、気楽な仕事などあるはずもない。
 自由な生活が面白くなり、この10年間、すっかり気ままに過ごすことになってしまった。

 退職後3年して、気ままな生活を書いた雑文を集めて、小冊子を「定年からの青春」というタイトルで自費出版した。
 この題名はサムエル・ウルマンの「青春」という詩からとったもので、
   青春とは心の持ちようであって、
   心を前向きに、
   好奇心を持って生活すれば
   歳に関係 なく青春である
 というのがこの詩の趣旨で、私は定年後の気ままな生活がウルマンのいう「青春」だと思って、本のタイトルを「定年からの青春」とした。

振り返ってみて、定年後の10年は実際に青春であっただろうか。
 10年という年月は中学入学から大学卒業までに相当し、子供が立派な大人に成長するほどの年月である
 この10年間で子供が大人に成長するように、私も少しは成長したであろうか。

 10年の間、病気らしい病気をせず、スポーツクラブに通って泳ぎを覚え、週に2〜3回は泳いで体力はそんなに落ちなかったと思う。
 絵画講座や料理教室に通い、海外旅行に行って、エッセーを書き、メール碁も楽しんできた。メール碁では勝率は良くないが、2回も連続して最多勝を受賞するほどであった。
 料理の腕は上がったと思うが、絵もエッセーも上達したようには思えず、碁の実力も弱くはなっていないが、強くもなっていない。
 中学生が大学を卒業するような成長には比べようがなく、マイナス成長にはなっていないと思うので満足しなければならないだろう。

 成長や進歩は無理としても、この10年間、退屈することはなかったし、毎日やりたいことを楽しみながらやってきた。
 元経企庁長官で評論家の堺屋太一さんは、団塊の世代の60歳代を「黄金の10年」と呼んでいる。
 私の年代は団塊の世代より10年ほど古い世代であるが、この10年を振り返ってみると、黄金とまでは行かなくても銀か銅の10年ではあったように思う。
 本のタイトルの通り「定年からの青春」であったかといえば、ウルマンの「心を前向きに、好奇心を持って生活」してきた点では青春だったと言えるかもしれない。
 青春という言葉には清新な若さや萌える活力が感じられ、私には残念ながらその活力や若さはもうないが、この10年を木に例えるなら、春から夏にかけての新緑ではないけれど、葉っぱはまだ青々として、紅葉にはまだ早い季節であったと思っている。

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 退職してから今年で10年になるということは私は70才を迎えたということでもある。
 70才だという実感はなく、70才になったからといって、何かが劇的に変わる事もないとは思うが、一つの節目ではあろう。
 道路交通法では70才になると車の運転にオレンジと黄色の紅葉(もみじ)マークを付けることが努力義務とされている。
 紅葉マークは正式には高齢者運転標識といって、一般の車が紅葉マークを付けた車に対して割り込みをしたような場合は一般車は道路交通法違反として罰せられるという。
 私は70才になってもまだ紅葉マークを付けていないが、世間的には紅葉マークを付ける年齢に達したということである。
 60歳代は「定年からの青春」と称して、まだまだ若さが残っているような気分であったが、70代となるとさすがに青春という言葉は使いずらい。
 70代に入ると車に紅葉マークが付くように、私の人生もぼつぼつ紅葉の季節が訪れたということであろう。

 カナダの紅葉を見ると、樹木が赤やオレンジに輝き、樹木は最高の場面を迎えているように見える。
 私もカナダの壮大な紅葉とまではゆかなくても、北海道の紅葉ぐらいにはなりたいものである。
 透明感のある赤やオレンジ、黄色に染まった素晴らしい70歳代になればと思っている。
 紅葉マークの代わりに枯れ葉マークと呼ばれないようにはしたいものだ。

(この文章は私のホームページから修正転載したものです。興味のある方はhttp://home.e06.itscom.net/mitty をご覧下さい)