青島編 Part 10 ライター千遥
北京と青島を結ぶ特快列車
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7月12日の朝を迎えた。朝食は7時からである。昨夜も、たっぷりと飲んだが食べ物はあまり摂っていない。それでお腹は空いたままだ。時間になったので早速食堂に出かける。京都ホテルの朝食バイキングはなかなか美味しい。出来るだけたくさん食べようとおもったが、若いときのようにはいかない。それで野菜や果物などの軽いものを中心に食べることとし、何回かお代わりをした。
広く立派なレストランなのに、お客はそれほど多くはない。チラホラと欧米人の姿が見える程度である。真夏だから、中国人も旅行は控えているのかな。
チンタオ行きの列車の切符は手元にあるから問題はない。しかし手持ちの人民元が100元(1500円)しかない。列車は北京発11時20分だから、充分に余裕がある。とりあえず必要な現金は昼食と夜食の代金程度だから、多くは要らないが何となく心細い。この位のホテルなら、日本円との両替は出来るはずである。それでフロントでお姉さんに両替を頼んだら、「没有銭=mei
you qian=メイヨウ チェーン」と仰る。
「日本円に替えるための人民元が手元にない」と言うわけである。こんな一流のホテルで、両替が出来ないのである。「そんなー、バカな話あるか」と思ったが、とにかく「ない」の一点張りだから仕方がない。
「没有= メイヨウ」とは日本語では「ない」である。丁寧に考えても「ありません」であり、ちょっと前の国営のデパートなどでは若い女性店員に、「没有」の一言で軽くあしらわれたものだ。何を聞いても同じ言葉が返ってくる。この言葉には随分と泣かされたし、腹立たしく思ったものだ。いまや、そんな態度のサービスレディはいなくなったが、言葉としては真に便利なものとして有効に使われている。
結局は銀行でしか両替が出来ない状態となった。その銀行も10時の開店というので、両替は諦めた。重い荷物を持っての移動は億劫である。それでチェックアウト(退房=
部屋を出る)することとした。400元の宿泊代に対して500元を前払いとして支払ってあるから、100元が戻った。
絶え間なく走る乗用車 大型の連結バスも多い
時間はたっぷりあるから、北京駅まで歩いていくことにした。徒歩15分程度であり、駅は見える範囲にあるが、大きな荷物(大行李)を持っての歩行は少し苦行ではあった。
広い道路を渡るためには歩道橋を登り、かつ降りねばならない。歩道橋の上から眺める駅前の道路は盛観だ。ひっきりなしに車が走る。ふと、歩道橋の下に目をやると、数人の観光客らしき姿をみかけた。こんなのは大方日本人だろうと思い、近づいて眺めたら、中国人の団体客であった。近頃は裕福な層も増えて、中国人の旅行も随分多くなったようである。
北京駅はまた、とてつもなく大きい。そのドエラク広い駅構内に入り、自分の乗るべき列車D55次( ひかり55号というようなもの) を確認した。また発車時間と自らの待合室、プラットホーム()のナンバーもしっかりと頭に入れた。何しろ間違えたら最悪だ。その上で、昼飯でも仕入れようと駅売店で品物を探したが、特に食べたいものが見つからない。朝食をたくさん摂ったせいかも知れない。結局はミネラルウオーターを2元で買っただけである。
やがて時間となり、列車がホームに滑るように入ってきた。チンタオの友人は、この列車を「新幹線」と言っていたが正にそのような車体をしている。これが冒頭に載せたである。日本の新幹線にそっくりだ。これなら、友人の言うこともまんざら外れともいえない。 とは「調和のとれた」とか、「和やかな」といった意味である。中国の政府首脳もを目指す。などと発言している。経済の大きな発展とともに、あまりにもひどい格差社会に陥った自国を、「理解はしている」ともいえるわけだ。
この列車は「特別快速」列車である。別に新幹線ではない。そのほかに快速と普通列車がある。まあ、この特快は、それだけの値打ちはある。普通列車だと9時間から10数時間かかるチンタオへの旅も5時間で到着できる。それなりの調和のとれた快適な車内であったことは間違いない。
日本人とバレタか 坊やがしきりに こちらを見る 発車間もない車窓の光景
わたしの座席は4号車の58だ。列車後部の通路よりだから、前のほうが良く見える。左には、母親とその息子がいる。前の座席にも子どもがいて、二人で何か喋り放題だ。聞き耳をたてるが、何を言っているのかまるで分からない。そのうち隣りの母子二人でトランプを始めて、やっと静かになる。右前方の男の子が閑らしく、しきりに当方を振り返り眺める。思えば、やたらに写真を撮るおかしな人間が珍しかったのかも知れない。
乗車券はクリックで拡大します
乗車券は、座席指定込みで273元(約4000円)だから結構高額な気がする。流石に、ここまでになると他人の座席に腰掛けている人間はいないようだ。すべて座席指定だから、もちろんのこと立っている人はいない。
北京駅を離れるに従い、高層のビルは少なくなり民家や工場などが多くなる。民家は白い土塀に茶系統のレンガづくり。地震が起きたら、ひとたまりもあるまい。遠くの近代的なマンションとの不調和が、ちょっとばかり気になる。
乗客は一見して上品な感じがする。大きな荷物は上の棚に乗せて、あとは貴重品だけ身につけ車内見学に出かける。列車も建造後まもないと見え、とにかく新築の家に住む感じがする。二度と乗れぬ列車と考え、片っ端からカメラに収める。これまで乗った中国の列車とはケタ違いに綺麗なことに驚く。オリンピックを1年後に控え、中国当局の心構えと共に乗客への注意の勧告があちこちで見受けられる。
オリンピックは、中国語では、またはと書く。ひらがなやカタカナのない中国では、外来語は昔の日本のように英語発音に合わせて漢字を振り当てる。この場合は、後者のほうが英語の発音には近くて、我々日本人には分かりやすいようだ。
余談はこの程度にして、車内の様子は写真で見ていただくのが最も早い。なかなか綺麗なものだったが、長年の習慣は、突然変異で変わらないようである。トイレに捨てたタバコで男子トイレが詰まり、溜まった小便の水が列車の揺れで溢れそうなのが気になった。
特別快速列車 車内設備の状況 拡大すはると コメント入りです
車内販売の お弁当 全部で23元也(340円)
途中、車内販売で昼食を求める。いわば軽食である。10センチ四方の器に入った米飯と、2種類のおかずに加え果物を買った。サクランボと桃であった。全部で23元。まあ、こんなもので胃袋は満足したようである。そしてプラスチックの袋をくれた。食べ終わったら全てここに入れよ、という意味らしい。そのあとに日式茶油というものがサービスで出た。日本式茶油というわけだが、わたしには分からない。あとで調べたら、低木の種から油をとる茶のことらしい。有毒だが、「加熱すれば食用になる」とあった。
知らぬが仏とは、このことか。結構危ない橋もわたってきたものである。車内は、ひっきりなしに制服を着用した車掌やサービスウーマンが通る。注意深くゴミの散乱に目を配り、少しでも目に付けば綺麗に片付けていく。やはり、1年後に迫ったオリンピックをかなり意識した改革への一環と感じた。
チンタオの駅は現在改修中と聞いていた。それで、一つ手前の四方駅で降りる。いずれにしても終点である。
北京を離れるに従い、草原や牧草地が多くなる。羊や牛などがノンビリと草を食む様子はのどかな光景であった。そのうち、当方もウトウトと眠りに落ちていった。(つづく)
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