チンタオ(中国)からのたより Part5


             

「私の日記」(6月30日)授業風景

朝の9時から授業だ。メインストリートのビルの9階に教室がある。五・四広場のすぐそばだ。通うのには便利だ。

授業を始めようと思ったら、葛さんが早口の中国語で何か言った。

どうやら「私に問題を出さないでください」ということらしい。まだ19歳でかわいい顔をしているけど、やる気のない子だ。めっ!

一応、「ダメ!今日は葛さんだけ勉強!」とか言って授業を始める。

今日は“行く”“来る”“帰る”“飲む”“食べる”などの動詞の練習だ。

「今朝、何を食べましたか」

「ラーメンを食べました」。

“インスタントラーメン”、“カップラーメン”と黒板に書く。

「インスタントラーメンは日本人の発明ですよ」

これを言っておかないと、日本人の有り難味がなくなるからな。ついでに「炊飯器も日本人の発明だよ」と教える。

美人の史さんが「すごいねー。日本人は頭いいねえ」と大げさに褒める。

「先生、私、おにぎりできます」と史さん。

「ほう、大したもんだ。おにぎり作るの難しいよ(おにぎりを握る手つきをする)。ジャスコでおにぎり売ってますよ。三角のが一個2元です。私も時々買って五・四広場で食べます。おいしいよ」

「先生、一人で食べますか」

「そうですよ」

「先生、寂しいねえ」

まあ、まあ、寂しい話はやめて。

おすしの話に移る。「日本のお米はおいしいんだよ」と言いながら、握りずしを握る真似をしていると、突然周君が、

「先生、私、オクノミヤギ好きです」

何だい、“オクノミヤギ”って?新しくできた米のブランド名か?聞いたことないぞ。

黒板に“奥の宮城”と書く。

「先生、違いますよ。オクノミヤギですよ」

だから、“オクノミヤギ”って何なんだ?

周君、前に出てきて黒板に絵を描き始めた。ピザみたいだ。

「ピザ。ジャパニーズ・ピザ。オクノミヤギ!」

得意げに叫んだ。はっは、困ったもんだ。お好み焼きのことじゃないか。お米の話をしているときに、“オクノミヤギ”なんて言うから混乱するんだ。“おこのみやき”を中国人風になまると“オクノミヤギ”に聞こえるんだな。おもしろいなー、クイズみたいだ。これだから日本語教師はやめられないんだ。

「お昼ご飯はどこで食べますか」

「レストランで」

贅沢だ。自分の家で残り物でも食べなさいよ。

「日本のうどんを食べます」

「いくらですか」

「15元です」

昼のクラスはみんな裕福な家庭のお坊ちゃま、お嬢様方なんだな。

授業を終えてビルの外へ出ると、向かい側のビルの前で弁当売りが路上に並んでる。

5元のを買って、五・四広場で食べるんだ。

15元のうどんとか、“オクノミヤギ”なんか、高くて食べられないよ。

どっちが日本人なんだ。


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