回文と囲碁 

事務局より
尾郷氏の回文発表の環境の提案がありましたので、作品掲載のページを作りました。読者の皆様是非チャレンジし、尾郷様あてメールで作品をお送り下さい。尾郷様のコメントをつけてHPへ掲載いたします。

                    作品送付先:  尾郷 賢 qeneq@fg8.so-net.ne.jp

回文と囲碁
                                                     今市市 尾郷

今日(けふ)も来たか 恋しい碁がたきも老け −回文と囲碁−  その2

3.回文囲碁狂歌

 回文の歴史から見ると回文狂歌は回文川柳よりも数百年も早い。しかし回文川柳の出現とともに回文狂歌は衰退を始めた。その理由はひとえに作り方が難しいからである。回文川柳が電車の中で、頭の中だけでも作れるのに対し、回文狂歌は机に座って、言葉を11個捜しながら進まねばならない。それでも作った後の充実感は狂歌のほうが数倍大きい。さらに、数時間かけて言葉探しのローラー作戦を遂行すれば、でき不出来はあるが必ず作れる。

 回文川柳を始めて1年後、万を持した格好で回文狂歌に取り組んだが、思ったよりも易しいな、というのが実感だった。

来た、囲め! 顔を拭き出しまた泣くな だました棋譜を拝め碁がたき

  うるせいやい、拭いたのは汗だッ。

最初に作った回文狂歌だ。名古屋−岐阜間の電車の中でできたので意を強くした。

 生きて勝つ! ダメ場でもがくヤボ鴨か ぼやく鴨では目立つか敵意

  敵の模様に飛び込んで生きようとする石と、ダメ場でもがく石との関連は?

2作目、内容的にちぐはぐさがあるが、一応合格点と思った。

 神よ泣け 投げる間際にまた奇跡 たまには決まる健気なヨミが

  これは自信作のひとつである。「神よ泣け」が名文句だと先輩が大讃辞をくれた。

   健気にヨンで決まったのなら奇跡とは違う、といった先輩もいた。厳しいッ!

 中無視を推したいがアテねばだめだ ハネてあがいた死を惜しむかな

  岡目8目であれこれ言うのは気楽なものだ。チッ、悔しい。

 じっくりと行こうヨム碁だみな取ると 涙ご無用 恋取り崩し

  恋人と碁を打って熱くなりすぎると恋は終わりだね。

 もしやあの… 見栄捨てしなで黒苦肉 ろくでなしです笑みの怪しも

  いくら苦肉の策とはいえ、色気で迫る女流には、こりゃ参ったね。

 手筋行け 劫でしとめろ 粘れ練れ ハネろ目閉じて 動け意地捨て

  囲碁10戒ではないが、教訓的な回文ができた。こんなのをもっと作りたい。。

 切り這うか ただしイキなしではだめだ 果てしなき意地戦う馬力

  勝負は最後まであきらめないこと。

 鎮めたし 捨てるか懐かしいハメは 石がつながる手筋ダメ筋

  昔よく使ったハメ手はもう通じない。死に石同士がつながっても死は死か。

 打ったみなただ死んで半目勝ちか 苦悶は転じ ただ涙ツウ

  目算しないで打ち続けるから…。無駄な戦いを挑んだものだ。

 仕舞う逃げ 派手さはないが美しく 痛快な技 デはげに巧し

  勝ち碁をしっかり勝ちきる技は、地味だけれど技巧の極みだね

 戻る手はつい涙するでも耐えた もてるスタミナいつ果てるとも

  本手のモドリは必ず後で効いてくる。スタミナ勝負はつらいけれど。

 きついけど身の幸かなとコミ出した 見事な勝ちさ飲み遂げ一気

  コミを出して彼に勝てたとはすばらしい。でも一気飲みはだめだよ。

 ハマる手か 幾度同じ手ヨミ暗く 見よ手品をと悔いが出る間は

  何度も同じハメにやられるのか。手品のようだと感心しても悔いは残る。

 オシを打ちヨミ確かさで仁王風 鬼手探した見よ中(チウ)押しを

  強いときはまるで仁王様。鬼手が見えたからいいようなものの。

 危険ばいコスむ筋良い はや三隅 やばいよ沈む すごい反撃

  ケイマは危険だからコスむか。三隅取って喜んでいたらすごい反撃を食らった。

 隅の2子ヌイた益のみ そのハネは 望みの消えた犬死にのミス

  隅の2子をヌイただけで喜んでいては…。そのハネが敗着だね。

 ヨメたじゃん キリ捨てうそ手壁塗れぬ 屁が出そうです力んじゃダメよ

  碁を打っていておならが出そうになったことは何度かある。力まないように…。

 竜巻で隅確かに手 ふと「ないな」 トブ手逃がしたミスで決まった

  竜巻のような攻撃で隅を手にされては終わったな。あそこでトンで居れば…。

 来た大器 勝たんか美景敬吾の碁 行け行け悲願 高き頂

  山下碁聖誕生直後に作って献上した応援歌。おかげで棋聖も奪取した。

   ペンネーム春秋子、秋山賢司氏にお褒めをいただいた。

 帝も待つ 千々に魔がなし直樹覇気 同じ仲間に父・妻も居て

  あちこち探しても悪い材料がない。より大きな飛躍を天帝(=神)も待っている。

 美味き鯛つまむぜと今朝咲いた依田 いざ酒とせむ 松抱き舞う

  依田名人誕生の翌朝、朝から酒もよかろう。床の間の盆栽を抱いて踊りだした。

 

 長くても75調の文章ならば逆読みの調子が揃うので意外に易しい。

  虚しさや 酔いか寝る卦か 2目の頭 ハネて勝てねば

    またあの雲に かける願いよ やさし南無

  これで勝てないなら酒か不貞寝か。お空の雲に祈ろうか。

 

4.回文の作り方

 回文の作り方には1)真ん中から 2)両端から のふたつがある。

 この文章の副題である「来たか恋しい碁がたき」は有名な回文「来たか碁がたき」の中央に「恋しい」を入れたものであり、「今日も来たか 恋しい碁がたきも老け」はその両端に「今日も」とその逆ヨミの「も老け」を入れただけであることは、すでに賢明な諸兄にはお分かりのことだろう。何、「今日」を「けふ」と読むのが納得できない? 古文では常識ですよ。

 ふたつの方法のうち真ん中からの方がずっと作りやすいと感じている。

 

a. 回文川柳の作り方

 川柳は5,7,5の文字数なので真ん中の7文字をまず考える。しかし7文字の回文をいきなり作るのはそれほどやさしいことではない。そこで7文字を3文字または4文字から始める。

 例えば「半目」という語を選ぶ。「はんもく」という4文字を7文字の前半に持ってくると「はんもくもんは」となる。「半目もんは」「半目もんば」「半目もんぱ」のどれもぴんと来ない。そこで「はんもく」を7文字の後半に持ってゆく。「くもんはんもく」は「愚問半目」「苦悶半目」のふたつができるが、後者が断然良い。これで7文字が決まった。次にこれに関連する5文字を考えては逆ヨミを繰り返す。「なみだあめ」「やっとかつ」「意地でかち」などいくつ作ってもぴんと来ない。ここががんばりどころである。最後に行き着いたのが「敵は墜ち」だ。「血を吐きて苦悶半目敵は墜ち」ができた。

 3文字の語を選んでみる。「手筋」で考える。「てすじ」を7文字の前半に持ってくると「てすじ○しすて」となり、後半にもってくると「しすて○てすじ」となり○に入る1文字を探す。50音のすべてを順に入れてみる。「手筋足捨て」「手筋石捨て」「手筋牛捨て」「手筋絵師捨て」「手筋オシ捨て」などかなり有望なものがある。さらに「地捨ての手筋」「システム手筋」「死す手も手筋」なども可能である。よしここは「手筋石捨て」にしよう。待てよ「手筋医師捨て」にすれば坂井秀至七段のパロディーになるぞ。そこで考え付いた5文字が「大胆に」で「大胆に手筋医師捨て忍耐だ」医師というエリートコースを外れて、碁打ちという基盤の定まらない世界へ飛び込むには周囲にも自分自身にもがまんしなければいけないことが多かったことだろう。じっと忍耐だ。

 「この際だ切ってアテツギ大差の碁」は両端から始めた。「大差の碁」と「この際だ」が逆ヨミの5文字だ。「切ってアテツギ」は「ダメもと」的に行う意味の句をいろいろ考えているうちに出てくる。

 

b. 回文狂歌の作り方

 文献にある回文狂歌をじっくり観察した。真ん中、第151617字目の3文字回文から始めるのがコツだと気づいた。

 例えば私の第1作を見てみよう。「泣くな」から始めた。ここの5文字を「もう泣くな」「こら泣くな」「また泣くな」「やい泣くな」などから「また泣くな」を選んだ。そうすると「泣くな」に続く句は「たま」から始まる。「たまらない」「たまげた」「たまさか」「だます」「だまって」などが候補になる。それぞれを「また泣くな」の前にくっつけてみると「いならまた泣くな」「たけまた泣くな」「かさまた泣くな」などとなる。「だました」を選ぶと「たしまた泣くな」となった。涙を拭く意味から「拭きだしまた泣くな」としてみた。そうすると「泣くな」に続く句は「だました棋譜」となる。前方に戻って「拭きだし」の直前に「なみだ」「顔」「あせ」などをつなげてそれぞれ作ってみると、「顔を拭きだしまた泣くなだました棋譜をおか」までができる。次に最後の「おか」は「拝め」がよさそうに思える。「め顔を拭き出しまた泣くなだました棋譜を拝め」までできた。最初の「め」で終わる語を探す。「はじめ」「分かれ目」「たため」「かなめ」などが考えられるが、「囲め」にすれば「囲め顔を拭き出しまた泣くなだました棋譜を拝めこか」となる。こうなると最後の「碁がたき」が出てくるのは時間の問題だった。「来た、囲め!顔を拭き出しまた泣くな だました棋譜を拝め碁がたき

の出来上がりだった。

 「隅の2子ヌイた益のみそのハネは望みの消えた犬死にのミス」は両端から始めた。「隅の2子」の逆読み「しにのミス」から「いぬ死にのミス」が生まれ、前方に戻って「隅の2子ヌイた」へ発展する。後方へ転じて「た犬死にのミス」となる。「た」で終わる語を考える。たくさんあるが「消えた」を使えば前方で「ヌイた益」となりちょうど良い。後方へ戻って「望みの消えた」に思い至り、そのまま前方につなぐと「ヌイた益のみその」となる。残る真ん中は3文字回文だ。多数ある。「這いは」「ハメは」「カケが」「カミ(カミ取り)が」「ハネは」などが可能だ。どれも大差はないようだ。

5.回文を作ろう

囲碁には3文字、4文字の用語がたくさんあるので、回文を作りやすい分野であるといえる。

碁を間接的に楽しむのにはいろんな方法がある。その中で囲碁川柳や囲碁狂歌は昔から人気が高い。この中に回文囲碁川柳と回文囲碁狂歌をぜひとも仲間入りさせたいものだ。

日本人伝統的に言葉遊びが好きだ。回文作りはかっこいい言葉遊びではなかろうか。すでに数名の回文仲間(または回文に惹かれた仲間)が居る。彼らと回文ファンの輪を広げる環境を作りたい。

 興味ある諸兄・姉の作品をご投稿いただき、順次掲示できるようになれば環境としては最高であろう。

 長い、退屈な?文章を完読頂きありがとうございました。