囲碁をモチーフにした陶芸作品

1)            挑戦したきっかけ

@     定年退職してまず何をやりたいかと自問自答した。囲碁・陶芸・ボランティア(手話)・写真・ヒョウタン・牛乳パッククラフト・炭焼き(竹炭)・・と五指以上やりたい趣味がある。それぞれの楽しみ方が異なる。そこで順番を決めることにした。条件として、人との交流、人付き合いが苦手な私は、できるだけ独学で学ぶことができるもの、作品は日常生活の取り入れて楽しみことができるものとしたが、私が選ぶものはその条件にすべて当てはまるものであった。当然である。人見知りは子供の時からあった。

A     そんな時、交通便が悪いがのどかな土地を無償で貸してくれる人を紹介された。晴耕雨読という言葉があるが、実は退職後はそんな生活を望んでいたので即、お願いして200坪ほどの土地を借りてそこに小屋を建てた。多少は経験がある陶芸窯を小屋の横に設置した。小屋は寝食できる最低限度のライフライン工事を行った。

B     この時点で常に人がいなければできない囲碁とボランティア(手話)、写真は退けられた。陶芸とヒョウタン、炭焼きをすることにした。もうひとつ雨天の時の趣味として文学好きな私は随筆を加えた。雨が降れば原稿用に立ち向い読書すか執筆である。まさしく晴耕雨読の世界を掌中した。

C     陶芸は多少の経験があるといっても趣味程度で全く知らないと言った方が良い。実際に作陶して知らないことが多く、困難を極めた。<たたら板>による陶板、型起こし成型が主流である。しかし早く袋物を作りたいと思ってもロクロは思うように回らず、中心が容易に取れない。自分の不甲斐なさを改めて知った。

D     陶芸の本・グラビア・写真をいろいろ参照した。素焼き前の成型過程、素焼き後の装飾過程、本焼き時の釉薬とその窯変などその奥行の深さに改めて驚いた。でも師事する時間がない。定年退職後、24時間全て自分の時間といっても体力の持続と技術の習得、情報獲得に限度がある。まず5年で見切りをつける必要がある。5年、65歳で基本成型法をマスターしてそれ以降は自分勝手流と決め込み、人がまだ手がけていない装飾陶芸に挑戦しようと思った。

E     若い頃、紙と土を混ぜた陶紙という材料で折り紙陶器、結び紐陶器、貼り絵陶器に挑戦した経験がある。陶紙と陶土の競合作品はまだ誰も経験していないだろうと思い、挑戦の一番手に挙げた。挑戦に当たって伝統的な陶芸技法は無視しない。

F     そんな時、囲碁が好きだった私は囲碁と離れていたことに気がついた。囲碁を装飾した陶器作品がないことに気がついた。詰め碁、基本定石を作品に入れると作品を見るたびに楽しみが出てくるだろう。同時に作成時、作成後も囲碁の勉強ができる。他人とは違う練習方法、上達間違いなしと勝手読みをして気持ちが高ぶった。

G     具体的な作成方法・・伝統的な陶土技法なら碁線は象嵌、陶紙なら埋め込みでできる。碁石は陶土技法なら白黒土の盛り付け(イッチン手法)、陶紙ならポンチで丸く切り取り、それを埋め込めまたは貼り付けで可能だろうと安易に考えた。しかし実際面でいろんな問題が出てきた。

2)            制作上の問題点

@     囲碁の碁盤には7路盤、9路盤、11路盤、13路盤、15路盤、17路盤、19路盤がある。陶磁器の場合は器面は小さく丸みがある。実際に碁線・碁石を紙に切り取りあてがった。その結果17・19路盤は無理である。器の形状で7路盤〜15路盤のいずれかを決める必要がある。

A     陶磁器の形状の多くは丸み、扁平がある。素地に形状に合わせて碁線を描く時、線間の均一性、バランスを取るのに苦労した。

B     線間が狭いと色移りあるいは色のはみ出しがあり、きれいな碁線が描かれない。また黒色に濃淡は出た場合、器面に微妙な色差がでてくる。また透明釉の掛けむらで微妙な色差がでてくる。予想以上、書き上げるのに時間がかかった。

C     素土の凹凸、象嵌の場合は掘り込みの浅深、陶紙の場合は幅の狭い広いによる碁線の不均一が起こる。

直線の碁線が描かれない。

D     碁線の上の碁石、特に白石に予想外の難問が出てきた。焼成により白石の上に下の碁線の黒がにじみ出てきて汚くなる。あるいは白が黒になることもあった。これ何点も汚さで失敗した。黒石はこうした失敗はなく殆ど成功した。

E     白石に使用する材料の選択に苦労した。白顔料は使用不能である。白石を置く下の碁線は丸く剥ぎ取ってから白石を置く方法、白釉薬を厚く盛ることなどで対処した。しかし新たな問題が出てきた。碁線横からのにじみ、盛る量で異様な碁石(流れたり、いびつな丸みになる)になり盛る量の限界の設定など必要になった。黒くなった白石のみ再度釉薬をつけ三度焼成することもあった。

3)            制作に当たってのデザイン

陶芸作品の形状

@     平定なものとして  魚などを乗せる長方形皿 お菓子や漬物を載せる扇型皿

A     丸みのあるものとして  円形の皿鉢(小鉢) 中鉢 大鉢 片口鉢

B     袋ものとして  花瓶 徳利

碁盤の形状と色

   碁盤をモチーフにするので実際の碁盤をいろいろアレンジした。

    通常の四角い碁盤 トランプ碁盤(ハート型・スペード型) 曲線の碁線

    碁盤を飛ばす 碁盤を折りたたむ 碁盤を水に流す 碁盤に上に何かを載せる 碁盤を立体化する

    碁盤を袋にする 碁盤同士を合わせる 碁盤を連ねる 碁盤に色をつける 碁盤をグラデーションにする・・・

碁石の形状と色

   碁盤同様の様々なアレンジを試みる

 

4)            焼成の仕様

 1)土 ― 信楽土

 2)焼成温度 ― 素焼き(750〜850℃)・本焼き(1250℃)

 3)釉薬 ― 透明釉(碁線・碁石を焼成後)

 4)大きさ  

       長方形 300×135×10H

扇型  260×145×15H

片口鉢 150Φ× 50H

小鉢(皿鉢)  120Φ× 50H

中鉢  200Φ× 70H

大鉢  300Φ× 85H

花瓶  150Φ×230H

以上の他は作品に大きさを記入した 

5)碁盤 ― 7路盤 9路盤 13路盤  

  
                                  
田川 進