日光の紅葉 ‘12年度総集編

日光が紅葉の名所であることは論を待たない。
しかし、‘12年度の日光の紅葉は、残暑が長く続いたせいか、最初の竜頭の滝はまずまずだったものの、後がさっぱりだった。皆があきらめかけたころ、いろは坂の紅葉あたりから俄然盛り返したという、不思議な展開になった。




1.小田代原の草紅葉
 紅葉シーズンの先駆けとなる小田代原の草紅葉は、ちょっと変わった紅葉である。草紅葉という名前に反して、主役はホザキシモツケなどの灌木類である。湿原に不可思議な縞模様を作る、他に類を見ない紅葉となる。
 
右奥の高い白樺が「貴婦人」と呼ばれる樹齢推定80歳超、白樺の平均寿命を30歳以上も超す老樹である。カメラマンに絶大な人気を博している。手前に広がる湿原に、縞を主とする赤い模様がある。一番濃い赤色がホザキシモツケの樹群である。湿原内に立つ高さ2~mの低い木々はズミ。別名エゾノコリンゴといい、寒冷湿地に育つ。6月には見事な白い花を咲かせる。

 
カメラを引くと、草紅葉の色がより鮮やかになる。ズミの木は湿地内で矮小に育ってしまった。



少し高い石垣の上から撮った。ここでは縞模様の幅が広がっている。湿原の向こう側は通常の雑木林である。前年の小田代原は台風のせいで、小田代湖と呼ばれる大規模な水たまりとなり、雪が積もるまで水の下だった。その影響が草紅葉に出ているのかもしれない。
 


2.竜頭の滝の紅葉
 
戦場ヶ原を流れる湯川がここ竜頭橋の下で急流となり、100mほど先の茶店の展望台で2本にわかれた滝となる。通常の(草という名がつかない)紅葉としては、金精峠と並んで日光で一番早い紅葉となる。遠くにのぞいている水面が中禅寺湖である。


 
 
 紅葉には白い滝がよく似合う。白い滝も赤い紅葉の相棒にされて嬉しそうである。


 
滝の下手に暗闇を背景にした美しい枝がある。この下方には滝の下流が流れている。



 
 竜頭の滝はたくさんの顔を持つので、場所の説明が難しい。やや日が強すぎである。ここでは風が強くてモミジの輪郭がにじんでしまった。


 
3.白根山中腹の黄葉
 日光白根山は日光市と群馬県との境界に位置するが、群馬県側の丸沼高原ロープウェイは、標高1300mから一気に2000mにまで連れて行ってくれる。頂上駅では白根山の雄大な山頂が、まるで手の届きそうな位置にそびえている。
 
白根山の樹木限界線の下方には広いダケカンバ林が広がっている。白樺の仲間で、白樺の育たない標高1500m以上の所に生える。10月の中旬、わずか1週間ほどの短い期間、見事な黄葉を見せてくれる。


 
ロープウェイ頂上駅には人口の庭園と足湯とがある。白根山登山で疲れた足を足湯がやさしく癒してくれる。その足湯から撮った白根山頂である。 


 
 折しもダケカンバには霧氷の花が満開だった。黄葉が散った木には銀の花が、黄葉中の木には金の花が咲いた。

 

 
4.小田代原のカラマツと貴婦人
 草紅葉から1カ月近くたって、小田代原ではカラマツと白樺が黄葉期を迎える。昔国の方針で、無益な湿原をカラマツで埋めようとした 歴史がある。湿原に植えられたカラマツは矮小カラマツにしかならなかったが、土を埋め立てた場所に植えられたカラマツが成長して、今観光客たちを楽しませている。
 
やや時期が遅かったが、まだまだ美しい。貴婦人も土を埋め立てた場所に生えたため、矮小にならずに済んだ。我々にもありがたき幸運ではあった。 



 
貴婦人の前後数メートル幅の場所にだけ、一筋の光が当たる。小田代原を囲む山々と太陽の位置との関係で、この時期にだけ起こる現象である。数分後には広い範囲に太陽が当たることになる。



 
左奥で一群のカラマツが貴婦人の控え軍隊としてスタンバっている。 
 


5.般若滝に舞う紅葉
 下りいろは坂の終点近く、剣峰という展望台がある。その正面に細い般若滝が落ちている。突然一陣の突風が滝の前で華やかなショーを演出した。
 
 たまたまカメラが滝を撮っていた時、このショーが予告もなく始まった。わずか数十秒間の、幻のような光景が、今もまぶたの裏で踊っている。



 
ご覧のように、時期的にも遅すぎた私に、過ぎたる幸運だった。


6.竜王峡の紅葉
 
鬼怒川温泉郷の竜王峡は、四季を通じていろんな顔を持っている。 
 
竜王峡を渡る吊り橋を、観光客たちは写真を撮りながらゆっくりと歩く。風景写真に人物が入ることを嫌ってきた私だが、このときは万やむを得なかった。これからは意識を変えようと気づかされた出来栄えだった。 




7.灯をともす紅葉
 満開の桜、芽ぶきの落葉樹そして紅葉などは、朝日や夕陽を浴びると内部に灯が灯るようにみえることがある。明るい花や葉に反射した光が乱反射を繰り返して、その一帯だけが明るさを増すのである。
 
 灯をともす紅葉は紅葉の木々を反逆光で見るときによくあらわれる。


鬼怒川上流では川の水が緑色である。いろいろな形の岩山の上に、明るく灯をともす木々が並ぶ。



 
かなり遅い時期の朝日を受けて、木の向こう側で1本のモミジの木が突然燃え上がった。まるで真っ赤に起こった炭火を見ているようだった。もっと上手に、もっと迫力を出して撮れなかったのが残念でならない。



 
間もなく火はこちら側のモミジの木に燃え移った。早く逃げねば…。





8.水車と紅葉
 杉並木公園内に2連水車がある。そのそばに立つモミジの木は、実に見事な紅葉を見せる。このコラボレーションは見逃せない。 
 
水車を透かしてみる紅葉。水車がすごいスピードで回っているように撮れたが、実際はゆっくりである。



 
左奥の水車の下流。水に映った赤と青が深い味わいを出している。 


紅葉が散る頃、水車が華やかな送別会を開いてくれた。 
 


9.流れの傍らの紅葉
 
霜のころ、路傍の流れの岸に錦が降った。水と氷の白色がいいアクセントを加えている。



 
スローシャッターで水の流れを強調する。日陰の白色はデジカメでは青色となる。これも悪くない。



10.モミジに霜 

散ったモミジを霜が白く縁取るサマは時々目にするが、枝についたままの葉の霜は初めて撮った。霜は地面近くの葉に降りるが、モミジの葉が地面近くに位置することが少ない。
この木は1mほどの高さしかなかった。




 
粉砂糖を振りかけたようなモミジ葉は朝日の中ですぐに溶ける銀衣装を、恨めしげに見つめるしかなかった。
 



11.モミジに雪
 モミジと雪のコラボは魅力的な被写体だが、めったにお目にかかれない。’12年は、紅葉シーズンがあらかた終わったころにどか雪が訪れた。天の恵みに感謝だ。
こんな立派なモミジがよく残っていてくれた。これも天の恵みだ。



こんな可憐なモミジ葉を一人占めできるなんて、私は明日死んでも惜しくない。



背景の雪景色がモミジを引き立てている。モノトーンの世界に降り立ったかぐや姫。間もなく月の世界に帰ってしまうのだが…。


 
紅葉を背景にしたモミジ葉の雪。深奥幽玄、深紅白飾。



総集編というタイトルをつけたが、所詮は私のカメラでとらえられた総集編である。モミジの名所の10分の1も撮れていない。
私自身は少なからず手ごたえを感じているが、読者諸氏がどう感じられたか、声が聞こえてきてくれたら最高の幸せである。
以上