幻の湖 <小田代湖>

                             撮影 : 日光市在住 尾郷 賢

7年ほど前まで、奥日光小田代原には
大雨のたび大きな水たまりができて、小田代湖と呼ばれていた。
その場所はちょうど小田代原の人気の目玉である草紅葉の出現する場所と一致していた。
すなわち、小田代湖ができると草紅葉が見られないことになる。

 そして当局は大きな決断を下した。工事をして水がたまらないようにしたのだ。
小田代湖を愛した人たちには大ブーイングが起こったが、2者択一だから仕方なかった。

 4年前、想定を超える大雨が降って工事後初めて小田代湖が出現した。
カメラファンたちは「幻の湖」と名付けて大喜びだった。
今年はその時にもまして大がかりな湖が出現した。その様子をお伝えしたい。



雄大かつ神秘的な小田代湖の美しさと変化など、どうぞゆっくりご鑑賞下さい。

                                               編集 : ライター千遥


                                                                          

9月10日、小田代湖出現の3日後である。大勢のカメラマンでごった返していた。
中央左奥に見える1本のシラカンバの木が貴婦人と呼ばれる小田代原のシンボルである。
そして広々とした小田代湖に映る雄大な日光連山が美しい。右方の大きな山が男体山である。



9月17日、きれいな朝焼けのもとで貴婦人と小田代湖が目を覚ました。
日光連山のシルエットの中で、朝霧に浮かぶ貴婦人と
カラマツなどの木々の隊列とその鏡像とが心臓にガツンと一撃をくらわした。



朝焼けが進むと赤い背景の中で貴婦人がひときわ気高く屹立する。
地球上にこんな光景が存在したとは…。



朝焼けが終わり青空が広がり、男体山の上から朝日が登ってきた。
貴婦人の周りをまだ朝霧が包んでいる。



10月8日、小田代湖の水が増え、木道が冠水した。
カメラマンたちは意にも介さず押し寄せた。木道は、
カメラマンたちが乗ると10cmほど沈み、離れると浮きあがる、浮き桟橋状態だ。



この日は朝霧というよりも、急な気温の低下による湖水からの湯気、
道東で「けあらし」と呼ばれる現象である。



朝霧と違う点は、層状にならず点状に立ち上がるところである。




右方に朝日が上ると、けあらしが金色に輝き始めた。極楽の景色もかくあらん…。




太陽の輻射熱が湖面からのけあらしを増幅させる。けあらしが高く高く舞い上がる。


                                         

けあらしが薄まると、折から紅葉を始めたズミの木々が鏡像を競っている。




岸のカラマツ連隊も負けじと鏡像コンクールに参加する。




まだけあらしの名残で霞んだ木々が美しい。一見、万華鏡の一部かと…。




日が当たっているのに黒色のブッシュがある。
何の木だろう。日光連山のシルエットの中で鏡像競演が続く。


葉の落ちかけたシラカンバの白い肌が存在感を示している。
やがて訪れる枯れ木林を迎えるためのお祭りだ。


ズミの木。寒冷地湿原のバラ科の木。別名エゾノコリンゴ。何とも楽しい鏡像だ。


10月16日、この日は残念ながら風が強く鏡像は見られなかったが、
カラマツの黄葉が進んで、金髪の貴婦人とともに金色の楽園を演出していた。
水量がさらに増えて木道の上が立ち入り禁止になっていた。